上奥富の梅宮神社で毎年2月10日・11日の両日に催される甘酒祭りは、県内でも有名な祭りのひとつです。この祭りは、木花咲耶姫命から彦火々出見命が産まれたのを喜んだ大山祇神が、清浄な田でとれた米から白酒を造り、天地神に祀ったところからはじまったといわれ、盃を勧めては謡いをあげ、さらに盃を重ねるという饗宴型の酒盛り祭りです。
この祭りは県指定の無形民俗文化財となっていますが、それは祭り自体の珍しさに加え、その運営が関東地方では他にみられない頭屋制で行われているためです。頭屋制とは氏子を数組に分け、その中の1組が1年を単位とする輪番制で祭礼に奉仕することで、現在は9組の頭屋からなっています。
祭りの主役は、頭屋の中から選ばれる杜氏です。杜氏は甘酒の仕込みをする主宰者で、かつては格式と財力がなければ勤まらなかったとされるほどの大役です。甘酒の「つけ込み」(仕込み)は1月中旬に行われますが、この作業は蒸し上がった米に麹を手際よく混ぜ、水といっしょに樽の中に移すことで、以前は杜氏の家で行われていましたが、現在は温度管理が可能な酒蔵で行われています。
2月10日は宵宮です。この日は、座揃式と呼ばれる神事が夜に行われます。座揃式は厳粛な神事で、領主役を勤める氏子総代らを社務所に迎えて行われます。領主とは川越藩主だった松平信綱のことで、慶安4年(1651)に当社を参拝して饗宴に招かれてから以後、主賓になったといわれています。座揃式は、盃を勧めてはそれを飲み干し、謡いをあげては再び盃を重ねるという形で進みますが、頭屋は儀式の進行役を勤める相伴頭を除いては、一切この席にでません。杜氏が出座するのは式の中ほどで、領主から神酒の出来栄えについて褒め言葉を賜るときのみです。
11日は大祭です。この日は参道の両側に露店が並び、境内はたいへんな賑わいをみせます。夕方になると頭渡しが行われますが、これは頭屋を引き継ぐ神事です。拝殿には、1年間にわたって頭屋を勤めた「本頭屋」と来年頭屋を勤める「受け頭屋」が列席し、盃のやり取りが謡いをあげながら行われます。
頭渡しが済むと、頭送りの儀式がはじまります。これは、本頭屋と受け頭屋に担がれた樽神輿が杜氏宅を出発し、神社でひと練りしたあと受け頭屋の杜氏宅へ送り込まれるもので、以前は村内を練り歩き、夜遅くなってから送り込んだとのことです。
- 埼玉県指定文化財〔無形民俗文化財〕
- 指定日 平成4(1992)年3月11日